Research

研究テーマ

1. 医用画像解析におけるランキング学習

医用画像解析における重症度推定では、離散的な重症度や異常の有無を判定する分類的なアプローチが長らく主流でしたが、近年では、病変の重症度や経過の変化といった、より繊細な情報を扱うことの重要性が高まっています。
特に、疾患の経過観察や治療効果の評価では、過去の画像との比較による相対的な判断が、臨床的に重要な役割を果たします。

私はこのような課題に対して、重症度の相対比較(相対アノテーション)を用いたランキング学習(Learning to Rank)の研究に取り組んでいます。
この手法は、曖昧な症例や境界的な所見にも対応でき、臨床の感覚に近い柔軟な判断支援を可能にする点が特長です。

また、情報学的な観点からは、従来の絶対的なスコア付け(絶対アノテーション)に比べて、相対アノテーションはアノテーションコストを抑えやすく、データ収集の効率化にも寄与します。

こうしたアプローチを通じて、臨床的なニュアンスを反映した臨床判断の支援技術の実現を目指しています。

2. ランキング学習における能動学習

深層学習を用いた医用画像解析では、精度の高いモデルを構築するために、大量の画像データと高品質なアノテーションが必要になります。
なかでも、ペアワイズランキング学習では、データのペアごとに相対的なラベル(例:「どちらがより重症か」)が必要となるため、アノテーションコストはさらに増大します。

画像が n 枚あれば、最大 n(n−1)/2 通りの比較ペアが生成され、アノテーション対象が指数的に増加するという問題があります。

私はこの課題に対し、限られたアノテーションコストで効率的な学習を実現するために、不確実性に基づく能動学習(Active Learning)の枠組みを取り入れた研究に取り組みました。
この研究では、Bayesian Network による不確実性推定を活用し、モデルが情報価値の高い比較ペアを選択的に取得できるよう設計しています。

さらに、Siamese Network 構造に対する MC dropout による不確実性推定の適用可能性を、数理的に正当化しており、実験結果に加えて理論的な根拠を持つ点が、この研究の大きな特徴です。

本研究成果は、医用画像解析分野のトップジャーナル Medical Image Analysis (Impact Factor: 10.7)に掲載されました(2024年)。
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3. 新規重症度スコアリングの開発

潰瘍性大腸炎(UC)の内視鏡所見では、従来からMayoスコアが用いられていますが、このスコアは離散的な4段階評価であり、評価者によって判定にばらつきが生じやすいという課題があります。
本研究では、このような課題を解決するために、ランキング学習の手法を応用し、重症度を連続的なスコアとして表現するアプローチに取り組みました。
この研究は、慶應義塾大学病院との共同研究として実施されました。

内視鏡専門医による相対的な重症度判断を多数収集し、それらの比較情報をもとに学習することで、UCの重症度を、従来の離散的な4段階スコアから、0〜10の連続スケール上で表現できるモデルを構築しました。

さらに、大腸全体にわたる重症度をグラデーションとして可視化するユーザーインターフェース(UI)も開発し、炎症の分布や変化を直感的に把握できる仕組みを実現しました。
私はこの研究において、モデルの設計およびプログラミング実装を担当しました。

本研究成果は、Digestive Endoscopy (Impact Factor: 5.0)に発表された論文に共著者として参画したものです(2023年)。この論文は、同誌2023年の閲覧数上位10%にランクインした注目論文として選ばれました。
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